飛行機で隣の座席に座った見知らぬ女性

『飛行機を怖がる彼女が隣に』

北海道行の飛行機に乗った時に隣の座席に座った見知らぬ女性が、ふいに話しかけてきました。年の頃は僕と同じ30代ぐらいで、色白の、目のきれいな女性でした。
「あのう、あたし、飛行機これがはじめてですの。怖くて怖くて、体が震えてならないのです」
いまどき珍しい人だなと思いながら僕は、ほとんどパニック状態に陥っている相手を慰めようと思って笑顔をうかべました。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。飛行機は地上の乗り物の中で一番事故が少ないのですよ。自動車事故なんて毎日のように起こっているでしょ。心配いりませんよ」
「でも、100%安全ではないのでは」
「そりゃ、100パーセントではありませんけど………」
「起こる可能性はあるわけですね」
「心配性なんですね。お若いのに」
「そんなに若くはないですわ」
「いや、若いですよ。肌なんかつやつやして」

彼女は照れたように笑いました。
それを見た僕は、彼女を落ち着かせる方法をみつけました。

「あなたはずいぶんきれいだから、異性にはよくもてるでしょう」
「そんなことないですわ」
「いや、僕から見てもとても魅力的だ。美人だし、セクシーだし」

ふつうなら見知らぬ女性にそんなことをいったら、セクハラで訴えられるところでしょうが、こういう特殊な環境内にあって初めて飛行機を利用する女性を、事故の恐怖から目をそらせるためなら、このくらいのこといっても誰から咎められることではないでしょう。
僕はもっとほめちぎろうと、失礼をもかえりみずに隣りの彼女をじろじろながめました。みればみるほどいい女性です。お世辞でなく僕は本気でこの女性を好きになりそうでした。それならこの特殊な環境を有効利用するにこしたことがないのはいうまでもありません。

「怖かったら、僕が手を握ってあげますよ」
「いいんですか」
彼女は本当にそのか細い腕を僕の方に伸ばしてきました。本当に震えているのが、目でもはっきりわかりました。僕は両手で彼女の手を握ってやりました。そしてゆっくりとなでさすってその皮膚を暖めてやりました。

「失礼」

いきなり男性が通路から言いました。僕があわてて引いた足の前を彼は通り過ぎ、彼女の向う側の窓際の席に座りこみました。

「あなた」

彼女が声をあげて男性にしがみつきました。どうもその男性は彼女の夫のようでした。
まもなく飛行機は飛び立ち、その後僕にできることといえば座席にもたれて眠ることぐらいでした。

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