彼女を初めてのデートに誘った僕 相手の心理がわからない

『鉄棒を回る彼女』

彼女を初めてのデートに誘った僕でしたが、相手の好みがわからないまま、あてもなくあちこち歩きまわっていました。
彼女とはとある古本屋で出会い、たまたま同じ本を求めて手を伸ばしかけたとき、僕が譲ると彼女は喜んで、古本屋を出てから駅の方までいっしょに歩きました。そのとき、メールアドレスを交換していたので、一週間ほどたってから連絡をとると、日曜日に会おうということになったのでした。

出会ったところが古本屋なので、最初はカフェで本や作家の話をしていたのですが、すぐにタネが尽きてしまい、それでは歩こうということになりました。
やがて、二人は公園の前までやってきました。秋半ばの公園には人影もまばらで、周囲を囲む欅の枝から舞い散った木の葉がいっぱい落ちていました。
二人はベンチに腰掛け、しばらく口をとざしていました。何かを話さなければと焦る僕の目にそのとき、
ベンチの並びに立つ、高低差のある鉄棒が見えました。高校生のとき、僕は鉄棒が得意で、クラスのみんなが見守る前で何回転もしてみせたものです。あのときの颯爽とした気持ちがよみがえってきた僕は、ふとベンチから離れて鉄棒のところにいき、低い順から並ぶ鉄棒の、真ん中を選んで立ちました。

そして鉄棒を握りしめるなり、えいと地面を蹴って飛び上がるなり、ぐるぐると回りだしました。高校のときでも精一杯やって10回ほどだったのが、彼女がみているとあってはりきった僕は、なんと20回転を演じてみせました。地面に着地したときには、目は回るわ気持ちは悪くなるわでさんざんでしたが、彼女の手前、無理にも平然とした態度を保ちました。
ベンチを振り返ると、彼女の姿がありません。急に鉄棒なんかやりだしたので、怒って帰ってしまったのかと辺りを見渡したところ、彼女は一番高い鉄棒の前に立っていました。

そしていきなり、自分の頭よりまだ高い鉄棒にひらりと飛びつくなり、両腕をぴんと伸ばした状態で目にもとまらぬ速さで回りはじめました。スカートが翻るのも一向かまわず回り続ける彼女の姿は凛々しく、そして美しさに満ちていました。
あぜんとする僕のまえに、悠々降り立った彼女は、
「私、大学時代、体操の選手だったの」と、平然として言いました。
しかしこのことがあってからというもの、僕たちは急に親しく口をきくようになり、おもいきって鉄棒をしたことが、おもわぬ好結果をもたらしたようです。

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